7月8日(月)
◇第7日 7月8日(月曜日)
朝10時過ぎ、マクドナルド近くのマーケットへ行って買い物をし、さらに反対側のウォールマートにも行き、ペンと煙草を買う。アメリカは煙草が高い。このマーケットで4ドル10セント、プリンストンのホテルでは6ドルもした(これを書いている2012年現在、煙草は6年間吸っていない)。
17時まで東野圭吾の『白夜行』を読む。街中のように見て回る場所がなく、野球もナイターなので、本を読むくらいしかやることがないの。
17時15分過ぎにTAXIで球場へ向かう。今日の試合はノーウィッチ・ナビゲーターズ対ビンガムトン・メッツ。ドッドスタジアム入口には開門(18時05分)を待つ数十人のファンが列を作っている。明日が2Aオールスターのファンフェスタ(前夜祭)なので、小さい町は盛り上がっているようだ。
チケット代は特別割引デーのためわずか1ドル。バックネット裏の右斜め後方から見る絶好の位置で、申し訳ない気分になる。
ゲーム開始30分前になって、選手が一塁側からちらほらグラウンドに姿を現す。3人が軽いランニングをして、1人がストレッチ、3人がフェンスを挟んでファンにサインをしている。
三塁側では2人がストレッチをして、1人がバットの素振り。いくら待ってもシートノックはやらないようですなあ。試合開始15分前になってようやく選手が出揃って、にぎやかになる。
この日の両チームのスターティングメンバー
ビンガムトン | ノーウィッチ |
---|---|
(6)Reyes,Jose | (8)Reese,Kevin |
(8)Redman,Prentice | (7)Gibbs,Kevin |
(D)Chevalier,Virgil | (9)Vento,Mike |
(3)McNeal,Aaron | (5)Cervenak,Mike |
(7)Watson,Matt | (3)Rifkin,Aaron |
(4)Shipp,Brian | (4)Myrow,Brian |
(9)Bay,Jason | (6)Nettles,Jeff |
(2)Gonzalez,Jimmy | (2)Cronin,Shane |
(5)Basak,Chris | (D)Parrish,Dave |
(1)?(背番号12) | (1)Smith,Matt |
[註]02年以降、レイエス(遊撃手)とベイ(右翼手)がメジャーで活躍しているように、この時期の両チームをくらべればビンガムトンのほうがいい選手が多い。ワトソン(左翼手)は06~07年の2年間ロッテで通算79安打放っているが、私の記憶にはほとんど残っていない。
試合は21時頃に終わった。往きに乗ったTAXIが球場前で待っているはずだが、なかなか姿を見せない。そのうち家路を急ぐ観客が1人2人車に乗って帰って行くのを恨めしげに見る、日本人2人。
南雲さんはそのTAXI会社に電話をして確認しようとするが、誰も出ないという。街中なら流して走るTAXIを拾うことができるが、ドッドスタジアムの周囲は大自然に囲まれている。最悪、野宿をするか、地理がわからない道を数時間歩かなければならないかもしれない。
駐車場から車がいなくなった頃、意を決してスタジアム内に入り、球場スタッフがいそうな部屋をノックして入ると、スパニッシュらしき紳士が顔を出し、どうかしましたか、という顔で何か言っている。
私の口を突いて出てきた言葉は“I want TAXI”。心から訴えれば何とかなるという甘い考えで、何度も「タクシーが欲しい」と繰り返した。
紳士は、まあまあわかったから、と私を落ち着かせるように手で制し、「車を呼ぶからそこで待っていなさい。なあに、案ずるよりも産むが易し、旅行者はアメリカのお客さんなんだから精一杯甘えればいいんですよ」と言い残し? オフィスに入って電話をかけている。
外に戻って南雲さんに「何とかなるみたい」と言うが、にわかには信じない様子で、疑わしげな目で見られた。そうこうするうちヘッドライトをピカッと光らせてTAXIがやって来た。ああ、これで野宿をしなくてすむと安堵した。
TAXIに少し待ってもらい、球場スタッフの紳士にお礼を言うと(thank youの連呼)、礼には及ばんと鷹揚に笑って手を挙げたので、私も手を挙げて応え、急いで車に乗り込んだ。
日本で外国人に英語で話しかけられると、“I can not speak English”と答え、心の中で「日本語くらい勉強してこいよ」と罵っていたが、そういう態度を私はこのときひたすら恥じた。そして英語をしっかり勉強しようと心に誓った。