プロ野球からアマチュア野球まで、野球を縦横無尽に語ろう

''週刊文春コラム''

アメリカ野球観戦旅行

  ※2002年当時連載していた週刊文春のコラムにアメリカ野球観戦記を4回掲載
   したので紹介することにする。

  ■週刊文春コラム「小関順二は野球が好きです」第47回

「アメリカ野球の奥深さ」を実感すべく北米横断中

 七月二日に成田を発ち、アメリカ時間のその夜にペンシルベニア州の州都、ハリスバーグに着いてから既に半分の旅程が過ぎた。この間に見た試合は次の通りだ。

◇七月三日=2A ハリスバーグVSアルトゥーナ
(ハリスバーグ・リバーサイドスタジアム)

◇七月四日=日米大学野球選手権・全日本VS全米選抜
(トレントン・ウォーターフロントパーク)

◇七月五日=MLB フィリーズVSアストロズ
(フィラデルフィア・ベテランズスタジアム)

◇七月七日=米国高校野球 カレッジセレクトベースボール
(ノーウィッチ・ドッドスタジアム)

◇七月八日=2A ノーウィッチVSビンガムトン
(ノーウィッチ・ドッドスタジアム)

◇七月十日=2A球宴
(ノーウィッチ・ドッドスタジアム)

 ペンシルベニアから東に移動してニュージャージーへ行き、そこから北上してコネチカットの各球場を回っている。交通機関はグレイハウンドと言われる遠距離バス、そしてアムトラック、ローカル線の鉄道で、周遊チケットの制約もあって飛行機は使っていない。もちろん不便。
 野球を効率よく観戦しようと思えば飛行機に乗るのが一番だが、「アメリカの広さを実感し」「アメリカ野球の奥深さを実感する」ことが目的の旅だから、つらさは覚悟していた。
 行動を共にする南雲孝一さんも僕も片言の英語しかしゃべれない。でも知っている単語を駆使して食い下がれば、アメリカ人も同じ人間である。嫌な対応をされても無視されても、漂流者が木片にしがみつくような執念で見知らぬ異国の各都市にたどり着いてきた。
 不穏な空気を漂わせるグレイハウンドターミナル、料金メーターが下りているタクシー……等々、皆怖かった。でも、行く先々には野球があった。この旅行を考える前には知らなかったハリスバーグ、トレントン、ノーウィッチには2Aのチームがあり、地元のファンが足を踏み鳴らし、手を叩いて応援する。気がつくと、ツアー旅行では満足できなくなっている自分がいた。
 七月三~五日にはもう一人、同行者がいた。アメリカでスポーツ経営学を学びながらインターン(実習生)としてハリスバーグ・セネタースで働く田辺泰樹さんだ。三日のハリスバーグ戦のチケットを取ってもらい、四、五日はトレントン、フィラデルフィアで共に観戦した。
「バンチ(中日)もムーア(阪神)もハリスバーグにいたんですよ」
 そんな話をしたあと、「和田ってどんなピッチャーなんですか?」と聞かれた。和田といえばもちろん早大の和田毅のことだが、アメリカで和田の名前が出て、即座に「早大の!」と反応できる人は少ないと思う。
 田辺さんは和田だけでなく、木佐貫洋(亜大)や後藤武敏(法大)のことも知っていた。アメリカの野球“周辺”環境が世界一と認めながら「アメリカに勝って日本が世界一になる」ことを真剣に考えている。こういう人がインターンであっても、アメリカの機構内で働いているということに頼もしさを覚える。しかも田辺さんには二十八歳の若さがある。
「ハリスバーグに来た日本人には無料でチケットを差し上げます」と言っていたので、興味のある人は是非メールで連絡を取ってほしい。スタジアムはダウンタウンの近くで、サスケハナ川の中州にある。宝石箱をぶちまけたような無秩序な美しさと、川辺の景観は日本では絶対にお目にかかれない。スタジアム環境に限れば日本は多分、永遠にアメリカに追いつけないだろう。
 日米大学野球にも少し触れると、アメリカの四番キャロス・クエンティンのバッティングが強烈な印象を残した。どこに投げても打たれると言う雰囲気なのだ。五年前に見たパット・バレルにも似た空気があったが、スキのなさはバレル以上。
 ちなみに、五日の試合ではフィリーズの四番にこのバレルが座っていた。明大の川上憲伸(中日)から打った神宮球場レフトスタンドへの特大ホームランがまざまざと蘇る。野球は連鎖していくから面白い。

[註]田辺さんがハリスバーグにいたのは10年前のこと。2012年現在はアメリカにはいない。
 また、「スタジアム環境に限れば日本は多分、永遠にアメリカに追いつけないだろう」という文章に対して、デトロイト・タイガース球団職員の経歴を持つ吉村浩さん(現日本ハムフロント)から、「私はそれを実現しようと思っているのです」と反論された。そういう気概を持つ人が日本の球界にいることを、私は誇らしく思う。



  ■週刊文春コラム「小関順二は野球が好きです」第48回

大学生のサマーリーグに野球の日米格差を見る

 七月十一日から旅の相棒が日刊スポーツ紙の福田豊氏に替わった。ボストンのホテルで待ち合わせ、ローカルバスで向かった先が避暑地で有名なケープコッド(コッド岬)。
 ここでは大学生のサマーリーグ戦、「ケープコッドリーグ」が行われているはずだった。ホテルのチェックインを済ませタクシーでマキオンフィールドまで行くと、やってる、やってる。
 裸木を土台にした照明塔が七つ、グラウンドをぐるりと取り巻き、一、三塁側に設(しつら)えられたスタンドには地元の人たちが鈴なりでひしめいていた。ボールボーイは八歳くらいの子供たち。グラウンドは枯れ芝状態だが総天然芝で、ヤジや怒声はまったく聞かれない。
 このサマーリーグに参加しているのは十チーム。オフィシャルイヤーブックを購入し、各チームのメンバーを見ると「スクール」という項目があり、選手の在籍する大学が書かれている。
 そう、このサマーリーグは大学の対抗戦ではない。各大学からピックアップされた選手がチームを構成し、約二か月間、MLB(メジャーリーグ)スカウトのチェックを受けることを主な目的とし、プレーするのである。
 彼らの実力は折紙付き。F.トーマス、M.ボーン、R.ベンチュラ、J.ケントなどメジャーを代表する実力派がケープコッドリーグでプレーし、あのN.ガルシアパーラも同リーグの出身者。今年のドラフトでは九人のケープコッドリーグ所属選手が一巡目で指名されているほどだ。
 僕が見たのは次の三試合。

 七月十一日 マリナーズ対メッツ
 七月十二日 カージナルス対レッドソックス
       マリナーズ対ホワイトキャップス

 十一日の試合では序盤からセーフティバントを試みる選手が二人いて、六回裏のメッツの攻撃では二点リードにもかかわらずスクイズを敢行している。
 この試合に限らず、アメリカ野球に触れて驚いたのはバントの多さだった。一、二番にはチャンスメーカーの役割が与えられ、選手は確実にそれを実行していく。日本には間違ったアメリカ野球の情報が多いと痛感した。
 バックネット裏にはスピードガンを片手に持つスカウトがうじゃうじゃいた。どのチームもドラフト候補の集団だから、他の球場にいても同じ光景に出くわしたはずだ。
 アメリカ野球はMLBを頂点としたピラミッドが形成されている。だから、好素質の選手を全米からゴソッと集めてチームを作り、品評会のようなリーグ戦を行うことができる。
 日本ならさしずめ東京六大学リーグから好素質の選手を集めて一チーム、東都大学リーグで一チーム、関西大学リーグで一チーム、という具合に十チームを作り軽井沢あたりでサマーリーグを行うようなものだ。
 しかし、プロ野球がピラミッドの頂点にいるという感覚がない日本では、同種の試みはまず不可能だろう。
 七月十六日にはオハイオ大学で行われた「グレートレイクスサマーリーグ」も見た。ここでプレーする日本人を発見。カズ・ナガイこと永井一彦くんだ。
 松江南高校卒業後渡米、グリーンズボロ大学に入学し、現在はノースフロリダ大学に籍を置く。八番を打っているから小技の選手だと勝手に想像していたが、堂々とした強打者の雰囲気を漂わせていた。試合後、三十分くらい話をした印象では好青年。
 一八○センチ、八六キロで、六○ヤード走六秒八。肩の強弱が試合では見られなかったので「十八日にまた来るから三塁返球とバックホームは全力で投げて」と注文をつける。さらに、バッティングもよく見たいので「バントもしないように」と厚かましいお願いをすると笑顔で「わかりました」。
 盗塁、バントは自分の判断でしているとのこと。だから「バントをしないで」と言われて「しません」と即座に答えられる。アメリカの風土がこういう野球選手を作り上げた。
 僕のアメリカ野球はいよいよ終盤を迎えるが、次回は壮絶な高校野球の話をしたい。もちろん、主人公はアメリカの高校生たちだ。これは本当に凄かった。



  ■週刊文春コラム「小関順二は野球が好きです」第49回

甲子園に引けをとらない全米高校球児の檜舞台

 今回のアメリカ野球観戦旅行の白眉は七月十四日に行われた「パーフェクトゲーム WWBAシニアワールドシリーズ」最終日だった。日本でいえば夏の甲子園大会だが、やや様子が異なる。
 パーフェクトゲームUSAという会社とベースボールアメリカ誌が主催者となって大会を運営するのだが、参加するチームはPL学園のような学校単位ではない。二つの会社のスタッフが全米で頻繁に行われている「ショウケース」に足を運んでスカウトした高校生が一堂に会し、大学のコーチ、エージェント、MLBスカウトに野球技術はもちろん、運動能力や身体能力を披露するという、一種トライアウト的な色彩をもつ大イベントである。
 ショウケースとは各地区ごとの優秀な選手が選抜されて練習や試合を行うトライアウト。つまり、ピックアップされた選手をさらにふるいにかけて選りすぐり、スカウティングの材料にしようという極めてアメリカ的な発想のもとでパーフェクトゲームは行われている。
 会場はジョージア州マリエッタにあるイーストコッブベースボールコンプレックス。三面のグラウンド(#1、#2、#3)を有す広大なスポーツ施設群で、嬉しいのは試合が行われる三つのグラウンドが隣り合わせていることだ。
 #1から#2、#3まで歩いて約十秒、#2から#3までは約十五秒という至近距離で、将来のメジャーリーガーをめざす高校生八百六人が四十チームに分かれて試合をする。バックネット裏にはもちろん、スピードガンとストップウォッチを持つそれらしき人たちがズラリと並び、一投一走ごとにカチッカチッとスピードを計測している。
 驚いたのは選手の詳細なデータを紹介する『スカウトブック』が売られていたことだ。フルネーム、ポジション、身長、体重、利き腕、在籍高校、卒業予定年、住所、電話、父母名のほかに学業の成績まで掲載されている。大学のコーチ、エージェント、MLBスカウトはこれを百ドルで買い、選手も一チーム千ドルから千五百ドルの参加費を払い出場する。何と、高校野球が商売になっている!
 このパーフェクトゲームのスタッフに日本人がいることを知り、早速コンタクトを取った。
「パーフェクトゲームは今年で八年目なんですが、この二、三年で規模がガッと大きくなりましたね。選手たちはパーフェクトゲームに呼ばれたいから四百九十五ドル払ってでもショウケースに参加するし、僕たちはパーフェクトゲームのブレードを高めたいからショウケースをたくさん見て、いい選手をたくさん集める。そういう相乗効果がいい結果を生み出しているんです」
 この安武賢太郎さん(26)の助けを借りて朝九時から見入った試合は驚きの連続だった。オースティンというチームの三塁手は、守備にはついているが打席に入っていない。そしてABDブルドッグスというチームは十人の選手が打席に入っていた。
 前日の雨のせいで最終日のこの日は全試合六イニング制で行われ、勝ち上がったチームは約四十分の休憩のあとすぐ次の試合を行う。投手は一度投げればもう登板しないが、ほとんどの野手は出ずっぱりでプレーし続ける。決勝に残ったフロリダボンバーズとオハイオウォーホークスは多分、この日だけで五試合戦っているはずである。
「多分」とあいまいな表現をしたのは三つのグラウンドで試合が同時進行していくので追い切れなかったためだ。しっかり選手を把握できたのは七試合。流し観戦まで入れたら十二、三試合見ていたはずである。
 投手は九○マイル(約一四四キロ)以上の本格派が続出し、その中でも注目したのはフロリダボンバーズの右腕、ノーラン・マリガン(カミネードマドンナ高)。打者は木製バットの使用でとまどった選手が多かったようだが、ボンバースの指名打者、カミーロ・バスケス(ハリッシュ高)の強打は出色だった。
 これまで来日した“全米選抜”でしか知り得なかったアメリカの高校生の評価が、この日だけで一変したことは言うまでもない。彼らは本当に凄かった。



  ■週刊文春コラム「小関順二は野球が好きです」第50回

米国野球と比べてみれば松坂の投げ方は非合理的

 七月三~二十二日までの実質二十日間に及ぶアメリカ野球観戦旅行で見た試合は高校=七、大学=六、1A=一、2A=三、3A=一、メジャー=四の計二十二試合。どの球場へ行っても内・外野総天然芝の美しさで、1 A~3Aのマイナーリーグの球場にも観客がわんさと入っているのには驚かされた。
 ホットドッグ、チキンの唐揚げ、ドロリと溶けたチーズをポテトチップスですくって食べるナチョスをビールと一緒に胃袋に流し込み、食い・飲み尽くせば席を立ち、左手にビール、右手にコレステロール満載の食い物を抱えて戻ってくる。アメリカ人の胃袋は底なしか!
 球場風景だけでなく、選手のプレースタイルでも日米の違いは随所に見られた。まず投手。
 高校、大学、1A、2A、3A、メジャーと見ているうちに気づいたのは、始動のとき右投手なら左足を上げるが、アメリカ人投手はこの左足が軸足より後ろに回り込まない。
 日本人投手なら、たとえば松坂大輔(西武)は始動のとき上げた左足が軸足の後ろに回り込む。体全体にねじりが生じ、見た目には力感十分のフォームになるが、このねじりのためボールを持つ右手が背中のほうに入り、これが後々の投球フォームに様々な悪影響を与えている。
 左肩の早い開き(右肩の酷使)、不安定なリリースポイント、球持ちの短さ、投げ終わったとき体勢が一塁側に流れる……等々。
 ストレートは高めに浮き、低めストレートは伸びを欠く、という松坂の慢性的な欠点は、すべて始動時の左足の回り込みに原因があると言ってもいい。
 ところがアメリカ人投手は高校、大学、マイナー、メジャーに関係なくほぼ全員、上げた左足のポジションが「軸足の前」と一定している。これによって体のねじりを抑え、ステップと同時に体を前に倒していきながらボールを投げ込んでいく、というのが僕が見たアメリカ人投手に共通する投球フォーム。
 入来祐作(巨人)のように体を沈み込ませて投げる投手もいなかった。ほぼ全員がホッジス(ヤクルト)、パウエル、バーグマン(近鉄)のように、前に倒れるようにして投げ込んでいく。
 入来も松坂同様、低めストレートに伸びを欠き、高めにホップする球筋に特徴があるが、アメリカ人投手は低めストレートが伸び、高めは空振りを誘う意図でしか投げてこない。どちらのほうが合理的かは、あえて言うまでもない。
 ところが、アメリカ野球を二十日間見ているうちに飽きている自分に気づいた。出てくる投手が金太郎飴のように同じフォームで投げているからだ。パウエルがそこかしこにいる!
 安定したフォームで「投げて、打って、守る」ことが一番大切だと日頃から言っているくせに、現実にその姿を目の当たりにすると面白くない。ランディ・ジョンソン、ロジャー・クレメンス、カート・シリングなど非日常的な空間を現出する個性的な大投手がいることは知っている。でも、その数が少ない。
 合理的なフォームにいつまでも安住しないで、一気に天上界に突き抜けてくれ。アメリカ野球は個性派がしのぎを削る夢のような世界。少なくとも、僕が聞いていたアメリカ野球はそういうものであったはずだ。
 打者は個性派が揃っていた。バットをぶりぶり揺すり、ヒッチして、下から思い切りしゃくって打ちにいく。打球は日本人選手のように三遊間、二遊間に集中せず、三塁方向に向かっていくことが多い。
 そのためか三塁手にうまい選手が多かった。アレックス・ロドリゲス、ノマー・ガルシアパーラ、デレク・ジータなど遊撃手に好選手が揃っているからアマチュアやファームでも遊撃手は宝の山だと勝手に想像していたが、ここでも予想は裏切られた。一塁手のショートバウンド処理のうまさ、外野手の送球時のフォームの大きさ……等々、日米の違いは本当に随所に見ることができた。
 日本でもアメリカでも、そして多分キューバでも、いい投手、いい打者は少ないのだろう。とくに、打者は少ない。それだけバッティングは難しいということである。色々なことがわかったアメリカ野球観戦旅行だった。

powered by Quick Homepage Maker 4.81
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

UA-28613913-1